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電脳部下の夢

IT総合情報ポータル「ITmedia」記載の「荒巻課長は電脳部下の夢を見るか」から引用。





荒巻課長は電脳部下の夢を見るか――攻殻機動隊にみるHuman Resource Management [城戸誠,ITmedia]


部下のマネジメントはマネジャーにとって、時に頭の痛い問題だ。サイバーパンクと称されるアニメーション作品に登場するマネジャーの「マネジメントの真髄」は、高い能力を持ち、創造性あふれるスタンドプレーを放つが、困難な状況においてミスを犯すこともある部下たちへの全幅の信頼であった。



“COOL JAPAN”の代表作

 米型グローバルスタンダードの侵食、ITリテラシーによるギャップ、そして終身雇用の崩壊といったここ10数年でのパラダイムシフト。そしてその後のビジネスシーンでのマネジメントは明らかに変質を期し、マネジャーにとっては頭の痛くなる問題の1つが部下のマネジメントではないだろうか。


 いやそれは今に限らずむしろ本質的なればこそマネジャーにとっては悩ましく、世にその指南書の類は事欠かない。
 個の時代といわれて久しいが、先の見えない時代に個人と企業の関係も変質せざるを得ないのが21世紀の日本の現実とすれば、集団を重んじる大企業の体育会体質も懐かしくさえ思えてくる。“COOL JAPAN”の代表作と言われるアニメーション作品「攻殻機動隊」の中で扱われる物語はそんなパラダイムシフトが一段も二段も進行し、世界大戦を更に2度経た後の近未来である。「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」(原作:士郎正宗、監督:神山健治)の第1話の冒頭で浮き上がる文字は象徴的でさえある。

 『あらゆるネットが眼根を巡らせ光や電子となった意思をある一方向に向かわせたとしても"孤人"が複合体としての"個"になる程には情報化されていない時代…A.D.2030』

 舞台となる公安9課は内務省の下部組織であるが、あらゆる犯罪に対し、事件が起こる前に電脳を駆使しその膨大な情報量を処理しながら、機動的に(攻性をともない)解決にあたるのがその役割である。時には超法規的な措置も辞さないが、それは内閣総理大臣の特命のもと、ということになる。つまり総理直属の遊軍的機動部隊というわけだ。その課を束ねるのが、荒巻大輔、通称“課長”だ。

 荒巻大輔のプロフィールは、元・軍情報部員ということぐらいしか明かされていないが、その決断力と意思の強さで、さまざまな事件に挑んでいく。彼のもとに集っているのは、草薙素子、通称“少佐”と呼ばれる強く美しい女性サイボーグを筆頭に、陸自レンジャー4課出身の武闘派バトー、元本庁のエースで正義漢トグサ、情報戦を最も得意とし高い分析力を誇るイシカワ、元軍人で優秀な前線&後方支援の縁の下の力持ちボーマ、世界有数の狙撃手で元傭兵サイトー、クールなオールラウンダーパズ、そして完全な機械ではあるがAIを組み込まれた思考戦車タチコマといったいずれも一癖二癖ある猛者たちである。義体化と呼ばれるサイボーグ化を施し、ジェンダーによる身体能力の差異はなく(ないどころか少佐などはむしろ義体のコントロール能力は格上)、人格としてのアイデンティティーは有機的内在のメタファーである“ゴースト”という形に納められている。皮肉なのは、この近未来社会においても、官の組織体質は延命し、縦割りの省間の利害と確執、中国やCIAとの政治的対立と癒着、果ては憲法第9条の議論までもが永続し、物語に厚みを与えている点だ。



人材マネジメントの視点からの考察

 さて話を元に戻そう。今回のテーマであるHRM(人材マネジメント)という視点で、この公安9課について考えてみたい。
 そもそもマネジメントの基本的なクライテリア(基準)は何であろうか。企業であっても、警察であっても目的は何らかの課題=事件の解決とすれば、最小限の人数と速度でその目的を達することができれば優秀なチームといえる。そこに必要なのは、課題に対する情報収集=リサーチ能力や、その分析能力、そしてそれに対する戦略と戦術の構築能力、そしてそのオペレーション能力といったところか。ビジネスシーンにおいては昨今のITの進化、論理的思考の浸透などにより戦略・戦術レベルまで高度に落とし込む企業は増えたような気はする。しかしながら実際に実働部隊が人間関係などのアナログ面で機能しなかったために全てが水泡に帰す、というのはうまくいっていない組織の典型としてありえる話だし、笑えない話ではある。

 ではこの公安9課の場合はどうなのか。それには設立の立役者であり、責任者である荒巻大輔という人物に対する考察が必要になる。9課を立ち上げた経緯は不明であるが、全体シリーズを通して語られるエピソードにおいて各種省庁から暴力団までその人脈は幅広い。また、一見背も低く初老の風体に似合わず、古い刑事ドラマのボスのようにアームチェアにどっしり腰を据えている訳ではなく、かなりアクティブだ。5話「マネキドリは謡う DECOY」のようにやくざ組織に単独行動に出ることもあるし、17話「未完成ラブロマンスの真相 ANGEL'S SHARE」のように自ら強盗と大胆に対峙することも辞さない。それらのエピソードにより人脈、情報収集能力、判断力、行動力、危機管理能力、そして上層部や部下への説明能力など個人としての能力、資質は極めて高いことがうかがい知れる。それらは通常の組織であればそれだけでリスペクトの対象として十全な求心力を持つであろう。ただここは公安9課。与えられる課題や事件のレベルも半端なものではなく、個の能力を極限まで引き出して、シナジーを図り、パフォーマンスを最大化することで最高の結果が常に求められる。

 ではいったい彼は何をマネジメントのテーマとしているのか。



スタンドプレーから生じるチームワーク

 そもそも、荒巻は軍隊上がりであるものの、9課のメンバーを単なる駒としては扱ってはいない。それは次の台詞に代表される。

 『我々の間にチームプレイなどという都合のよい言い訳は存在せん。あるとすればスタンドプレーから生じるチームワークだけだ。』

 つまりタイトルであるSTAND ALONE COMPLEX=個の複合を体現した台詞だが、それは彼自身のポリシーでもあるのだ。メンバー各人は修羅場をくぐりぬけてきた極めて能力の高いプロフェッショナルの集合体であり、一匹狼としてやっていける自負をもつ“個”なのだ。そして同時にそもそも集団で動くことを嫌う“孤”たちでもある。そういった能力は高いものの、協調性という言葉とは程遠いメンバーをどうマネジメントしていくのか。スタンドプレーの容認ということは言い換えれば、メンバーに対する全幅の信頼がなければ成立しない。特に草薙“少佐”に対する信頼感は絶対といってもよく、その証拠に実際のオペレーション体制は二重構造をとっており、現場での判断はほぼすべて少佐に任されている。少佐との男女関係を疑われてもおかしくないくらいだが、そのかわり、荒巻は人間的でウェットな情の部分は意識的に排除している節があり、それは唯一の理解者であり元僚友である陸自情報部の久保田を慮るが故の表面上ビジネスライクなやりとりや、同じく亡くなった僚友辻先を「親友ではなくただの戦友」と断じる部分にも表れている。

 それらはいずれも彼自身の過去を想像させるエピソードではあるが、垣間見せる人間性を結果、強調する。
 そして真骨頂は1stシリーズのラストにおいて、一連の「笑い男事件」に絡み、政治的圧力により9課をスケープゴートにしろと暗に迫る総理に対し、『お待ち下さい!いついかなる時でも私を信じて疑わない部下への信頼、それこそ私が今まで築き上げてきた財産のすべてです!』と叫ぶ荒巻の姿であろう。部下との関係はどこか恋愛関係に似ている。信頼=リスペクトの対象となる能力、特長とエモーションがあって初めて成立し、それは相互補完の関係となっている場合が多い。サイバーパンクにそのエッセンスを見ること自体、壮大な皮肉であるかもしれないが、それが“COOL JAPAN”の名作たるゆえんか。





荒巻と少佐001
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テーマ:攻殻機動隊 - ジャンル:アニメ・コミック

  1. 2008/05/23(金) 12:00:00|
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