今回は特別企画「共同企画SS」である。
以前のワシの妄想ネタ
「特定のウチコマ」を元に我が
戦友もとい親友である
『徒然趣味ブログ』のクロマ殿より素敵な攻殻SSを頂いた。
クロマ殿のご好意により弊ブログでも「全国同時公開」として頂いたのだ。クロマ殿、本当にありがとう。(公開時間が若干遅れてしまった。申し訳ない=3)
では、クロマ殿の素敵攻殻SSの最新作、お楽しみくだされ。
『二つの記憶』 著 : クロマ
協力 : 課長
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時系列は、2nd GIGと、S.S.S.の間。
ウチコマとそこに残された記憶に、
託された想いとは?
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桜の季節。
ニイハマの街から、少し離れた海沿いの道路を、
一機のウチコマが走っていた。
「…」
素子はウチコマのポッドから顔を出し、
ウチコマを走らせながら、ちらと片方の海を眺めた。
春の穏やかな、ところどころに白い雲の混じった空を、
綺麗に澄んだ海の水面が鏡のようにとらえ、
昼の光できらめいている。
遠くのほうを眺めても、そのきらめきで、
空と海とを隔てる水平線は見えない。
まるで一体化したかのように。
しかし、そんな綺麗な風景も、
少佐の眼にはどこか虚ろに映る。
“桜の24時間監視”からやっと開放され、さぁ出発!というときに、
「私は後から合流する」と告げたものの、
他のメンバーとはひとり違う方向へとウチコマを走らせた素子。
クゼのこと…
上部構造のこと…
もう終わったこと。と割り切れない気持ちが、自分の中にあるのを感じずにはいられなかった。
まるで、ひとり違う場所に取り残されたような感覚。
もやっと曇ったような感じが、いつもつきまとい、
まるで全てに達観してしまったかのように、その2つのこと意外はどうでもいいことのように思える。
「あそこに行ってしまったのか…?」
ぼんやりと見ていた水平線に向かって、つぶやくように少佐は言った。
……、
やっぱり…。
「すなまい…」
反対方向へと置いていった9課のメンバーにむけ、そう言って、
素子は、ウチコマを道路の脇へと停めた。
私は…、ここにはいられない。
探してみたい。
クゼの追い求めた、”上部構造”とはなにか。どこにあるのか。
ニイハマまであと少し、といった場所。
そこで素子は、ウチコマから降りていた。
「ショウサ…?」
ウチコマが、タチコマとはかけ離れたような機械的な声で尋ねる。
「ごめんね。」
素子がウチコマの緑のボディをそっと指でなぞりながら囁く。
言い聞かすように。
きっとウチコマが人間の子供なら、
一生トラウマになるであろうこの置いてきぼりを、
彼女は少なからず申し訳ないと思っている。
もちろん、9課のみんなにも。
でも今の自分では、このまま9課に残っても、役に立てないだろうし、
うまくやっていく自信も無い…。
そんなことを考えながら、そっとなぞる自分の手をみていた。
ふと。自分の手にされている腕時計が目に留まる。
(これは…、置いていこう…)
全身義体になってから、この時計は単なる時計ではなく、
”唯一これまでの自分を特定できる外部記憶装置”だった。
でも、自分は今、違う場所へ行こうとしている。
上部構造…、そこではきっとクゼの言っていたように、現実の肉体から切り離されたものの社会なのだろう。
その場所に”この腕時計”は持っていけない。
きっと失うことになるだろう。
この腕時計は大事なものだから…。
だからこそ持っていけない。
だってこれは…。
これはあの人が命がけで…。
「これ、預かっといてね?」
ウチコマに、お願いするように言った後、
素子はウチコマのポッドに、その腕時計をそっと置いた。
さぁ…。
もう行かなくては。
みんなが不審に思って、探しに来る前に。
「じゃあ、行くわ。
…ついて来ちゃだめよ。」
全てを命令として聞いているウチコマに、素子を止めさせることなどできない。
「リョウカイ。」
ウチコマのそう言うのを聞くと、素子は街のほうへと歩き出した。
背後のウチコマを、髪の毛越しにちらと見やる。
微動だにせず、こちらを向いたウチコマのアイボールは、どこか悲しげに見えた。
そんなはずは無いのだが…。
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「なぁにぃ?」
バトーが、ウチコマの通信機の画面に向かって吠えている。
通信機の画面には、荒巻課長が苦そうな顔がこちらを向いて映っている。
少佐がいなくなった。
課長はそう告げた。
仕事復帰。と聞かされたが、もはや仕事どころではない。
『まったく、最近の少佐はどうなっておるのだ?』
課長がため息混じりに聞く。
「だからぁ…、出島の一件以来おかしいって、報告書に書いたでしょう?」
『…』
「はぁ〜…、やっぱり読んでねぇのかよ…」
バトーがうなだれる。
が、うなだれている場合でもない。
「で、どうします?」
バトーが、本当にどうすればわからない。といった様子で聞く。
『仕方ない、ひとまずは先ほどの会話どおり、お前が指揮をとれ。
少佐の捜索はこちらからティルトローター機で行う。』
大丈夫…、すぐ戻ってくるさ…
誰もが皆、そう思っていた。
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9課ブリーフィングルーム。
皆が皆、落ち着かない様子でいる。
トグサとイシカワは椅子にうなだれ、サイトーとパズ、ボーマは考え込んだように壁にもたれ、
バトーはまさに落ち着かないという様子で、あたりをうろうろしている。
そこへ課長が入ってきた。
皆の視線が一斉に課長にむけられる。
「課長…」
トグサが真っ先に口を開いた。
「少佐は?」
イシカワが聞く。
「やはり、いなかった。」
課長は首を横にふった。
固体識別信号が発せられているウチコマそのものは見つけることは容易だったが、
回収したウチコマのポッドの中に、少佐の姿は無かった。
もちろん、電通などを試みたが、一切応答しなかったらしい。
「…が、こんなものが落ちていた。
誰かこころあたりは無いか?」
課長が右手を差し出す。
その手の中には、ひとつの腕時計が握られていた。
「これは…」
バトーがつぶやく。
知っている。
これは素子の時計。
いつも大事そうに持っていた時計。
「知っているのか!?」
「「なんだ」」
課長が驚いたように聞く。
ほかの皆も、いっせいに反応する。
何か手がかりになるかもしれない…?
課長はその時計を、バトーに手渡す。
バトーは時計をよく眺めながら、
「知ってます。少佐のです。」
と言った。が、それきり口を開かない。
「ふむ…。」
手がかりは途絶えてしまった。
周りの反応も意気消沈となる。
課長の声は疲れ切っていた。
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9課、ハンガー。
先ほどの課長の報告を聞いてすぐ、バトーはハンガーへと走った。
ウチコマが並べられている。緑色の機体色がまだ部屋に馴染まない。
そのうちの一機は、回収されたウチコマだ。
赤福達が、その一機のウチコマを囲み、ウチコマのデータを拾い上げる準備をしている。
「俺がやる!」
バトーが慌てるように言った。
「そうかい?」
赤福は、最初こそ不審そうにバトーを見やったが、
やがて、仕事がひとつ減った喜びか、そそくさと退散していった。
人任せになどできない。こんな大事なことは。
そう思いながら、バトーはプラグをウチコマのコネクタへと挿した。
(なにかひとつでも…)
時計を残していったのだから、きっとここにも…
手の中にある、先ほど課長から受け取った腕時計を見た。
腕時計をそっと、服のポケットにしまい、
手がかりを求めて、バトーはウチコマの記憶を探した。
調べられるものは全て抽出して洗い出し、ひとつひとつ素子との関連を探る…、
ウチコマのもつ情報量からすれば、それは途方も無い作業だが、それでもバトーは隅々まで調べた。
ただひとつ。素子の痕跡を探って…。
……
随分と時間がたった。
気がつけば、もうすっかり深夜で、
特に明かりもつけずに作業を始めたハンガーは、今ではすっかり真っ暗だった。
暗いハンガーの中で、バトーはウチコマを照らす小さな明かりだけを頼りに、
ポッドの中をゴソゴソと探ったり、ウチコマの記憶を何回も調べたりしていた。
そんな長時間の解析にもかかわらず、少佐の痕跡は、
物はもちろん、データすら、あれから一切見つかっていない。
やはり、少佐ともあろうものが、ウチコマの電脳内に痕跡を残すなど、ありえないのだ。
すっかり疲れ果ててしまったバトーは、ウチコマの背にもたれ、座りこむ。
「なにも…ない…。」
長時間調べたことの疲れよりも、ただ素子の痕跡をみつけられなかったのが、悲しい。
バトーは、ポケットから腕時計をとりだし、それをみた。
「どこに…、いや、どうして行ってしまったんだ、素子…。」
まるで腕時計に問いかけるようにそう言った。
9課存続の危機になったとき、セーフハウスで再開したとき、
素子はこの腕時計を、”唯一これまでの自分を特定できる外部記憶装置”だと言った。
いや、言ったのは俺だったかが…。
この腕時計は希望では無かったのか…?
痕跡を残すという希望…。
でも、ここには、ウチコマには何も無い。
ならばこの腕時計は反対に絶望のメッセージなのか…?
今までの自分との決別?
9課との決別?
クゼの言っていたという、上部構造へのシフト?
あるいは、俺との別れ…か?
いろんな意味ともとれる、この腕時計。
しかし、結局はその全ての疑問が、バトーの考えを一点へと結論を向かわせる。
「…、もう…、戻っては来ないのか?」
そういうことなのか?
なおも問いかけるように見やった腕時計。
もちろん返事など返ってこない。
「……。」
バトーは、またそっと、腕時計をポケットへとしまった。
「お前は、何も聞いてないよなぁ?」
無理をして、心にも無い明るい調子で、バトーはウチコマにたずねる。
「…?」
曖昧な質問を投げかけられ、返答できないウチコマをみて、
バトーは、やさしくそのボディを撫でた。
きっとコイツだって悲しいのだろう。バトーはそう思った。
口には出さないが、基本構造はタチコマと同じ。
きっと、ウチコマにもゴーストは宿っているはずだ。
置いてきぼりで…、
きっとコイツも、今の俺と同じで悲しいんだ…。
そのとき、はらり。とひとひらの桜の花びらが、
ウチコマから、バトーの足元へと落ちた。まるで涙のように。
「桜…」
素子と最後にいた場所、最後に一緒に見た風景…
そのなごりが今ここにやってきて、つい先ほどのことを、
なぜか遠い過去のことのように思い出させる。
そう思った瞬間、
バトーは自分が、今にも泣き出しそうになるのを感じた。
どうしようもなく、こみ上げてくる想いがバトーを苦しめた。
静かなハンガーからは、男の泣き声だけが聞こえていた。
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素子がいなくなってから、もう随分と経った。
9課は、トグサをリーダーとした新体制に移行した。
これまでの少数精鋭部隊としての存続が難しくなったため、
大幅な人員増加によって、数で戦う部隊へと変化した。
そうさせたのは、近頃の犯罪が大人数的かつ同時多発的になったため、前者では対応しきれなかったのが主だった理由だが、
やはり、”少佐”という存在がいなくなったことも大きな原因だった。
この部隊の切り替え時に、荒巻課長はバトーにそのリーダー役を頼んででた。
しかし、バトーは、「自分には向いていない」と言って、その役を自ら断った。
もっとも、一番の理由は他のところにあったようだが…。
素子が居なくなってから、
バトーはまた、自分専用のウチコマを決めていた。
以前、タチコマを自分専用機にした理由は、天然オイルによる個性化だったが、
今回は違う。
ウチコマにも、何度と無く天然オイルを与えてみたが、タチコマのような効果は無かった。
あのときとは環境が大きく変わってしまったからだろうか…。
ではなぜ、専用機を決めたのか。
それは、”素子の乗っていた機体”だからだ。
素子が最後に乗り、腕時計を置いていった機体。
その特別な機体に、素子の温もりを感じたかったのかもしれない…。
バトーは、来る日も来る日も、ウチコマに乗り続けた。
ただひとつ、素子の姿、あるいはそのゴーストを追い求めて。
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まさか再会できると思わなかった。
こんなに早く。こんな場所で。
早く…と言っても、自分には永遠に思えるほど、死ぬほどつらく長い時間だったが。
そんなことを考えながら、バトーは自分の隣にいる素子を見ていた。
Solid Stateの事件後、素子が意識を失い、セーフハウスでその治療をしていて、
さっきやっと目が覚めて、しばらく話していたところだ。
「私は、何に達観してたのかしら…」
素子が言う。まったくだ。
こんなに回りに迷惑…、心配をかけて。
素子の心は震えていた。
あえて、こともなげに言ってみたが、怒られやしないだろうか。
いや、怒られて当然だが、9課は、バトーは、再び私がいることを許してくれるだろうか…。
自分に、帰ってよい居場所などあるのだろうか…。
「なぁんだ。」
バトーが言う。「ずいぶんとしおらしいじゃねぇか。」
許してくれるのだろうか?こんな私を。
あのとき自分が何もできなかったのを、世界や組織のせいにして逃げ出した私を。
バトーの目は円筒状の義眼でできており、まなざしといったものから、その感情を読み取るのはできないが、
それでも、バトーの顔や、言葉は優しかった。
許してくれた。
置いてきぼりにしたのに。
「トグサは?」「9課は?」
とたずねても、
「それで伸びねぇようなら、それがあいつの限界」
と言ってくれた。このどこまでも優しい男は。
だからこそ、あのとき裏切ってしまった自分が、悲しい。
「あぁ、そうだ。」
バトーが言う。
なんだろう…。やはり怒られるのだろうか。
そう思って言葉を待っていた素子の前に、意外なものが差し出される。
バトーの大きな握られた手。
「手ぇ…、だせや。」
素子が恐る恐る手を出す。
すると、バトーがその手を覆いかぶさるように、両手で包むと、
ずっしりとした重さが、素子の手に伝わる。
バトーが手をどけると、そこには、あの日置いてきた腕時計があった。
「これ…は…。」
素子が言葉に詰まる。
バトーは、ちゃんと今まで持っていてくれたのだ。
「あのよぉ。」
バトーが言う。
「前にお前が家にそれ忘れて、俺がとってきたとき、大変だったんだぞ?」
そうだ…。
忘れもしない。
私が、ふと「忘れた。」といった一言で、バトーはとってきてくれた。
敵と戦ってぼろぼろになっても、時計はちゃんと無傷で…。
だからこそ、私は無くすまいと思って、
バトーが必死に守ってくれたこんなに大事なものを無くすまいと思って…、
それでウチコマの中においてきたのだけど、
でも、他の人から見れば、たしかに置いてきただけなのかもしれない。
「ごめんなさい…。無くさないようにと思って…。」
いつになく、素子が謝る。
真剣な顔で、謝られたバトーは、恥ずかしくてその顔を見ることができない。
「も、もう置いてくなよ。」
バトーはそう言うのが精一杯だった。
うん、うん、と頷く素子の顔が、今にも泣き出しそうな。
「こっちこいよ。」
バトーが大きく腕をひらき言う。
素子はそこへゆっくり寄り添う。
バトーは素子を抱きしめた。
たしかに伝わる素子の温もりが、心にまで伝わってくる。
優しいバトーの胸にだかれ、素子は泣いた。
もう二度と、この人に悲しい想いをさせまいと誓って。
Fin
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後日。
素子が帰ってきてから、少しずつではあるが、
ウチコマにも個性のようなものが見え隠れするようになってきた。
やはりA.I.の成長には環境のもたらす影響が多いようだ。
タチコマの復帰で、お役御免かとも思われたウチコマだが、
この学習能力からすれば、案外、引退の日は遠いかもしれない…。
※画像はSAC 第25話「硝煙弾雨」より引用。
※本作品は『徒然趣味ブログ』のクロマ殿に帰属する物であり、無断転用はご遠慮くだされ。
- 2007/05/06(日) 20:00:00|
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